【オピニオン】米国納税者は製薬企業主導の医薬品の臨床試験への資金提供を止めるべき

米国医薬品専門誌STATに2025年2月4日掲載の記事1)。NCIがサポートしている臨床試験も商業的影響を受けていることを指摘している。記事では、具体的に問題と思われる開発の事例が示されている。記事中にある納税者が負担している臨床試験のコスト約7000㌦については、1994年から1996年のKaiser Permanenteでの22のがん臨床試験からの推計値であるが、米国のがん臨床試験費用についてのデータとして有用である2)。以下は記事の要約。

米国国立癌研究所( National Cancer Institute:NCI)の設立以来、癌治療と医薬品開発は著しく進歩し、患者の生存期間と生活の質は向上した。しかし、その進歩は多大な費用を伴っており、今後の課題は、癌治療費が連邦政府の医療支出を圧迫し続けるのか、それとも費用対効果の高い医療提供体制を構築できるのかという点にある。この問いに答えるためには、従来のやり方を根本的に見直す必要がある。特に、連邦政府が資金提供する癌研究、中でも臨床試験研究は、方向転換が求められている。

現在、連邦政府の資金は、企業が所有する医薬品(治験薬と市販薬の両方)の開発促進に割り当てられているが、これを、過剰な治療による不必要な毒性に苦しむ癌患者と納税者の双方に利益をもたらす臨床試験を支援するために転換すべきである。具体的には、NCIのInvestigational Drug Branch(IDB)を廃止し、Optimal Dosing Branch(ODB)を新設することを提案する。ODBは、癌治療の経済的、身体的、精神的負担を軽減することに焦点を当てることで、「癌のあり方」を真に変えることを目指す。

この新しいパラダイムにおける政府の役割は、製薬業界が実施しない種類の臨床試験に資金を提供することである。例えば、特許期間中の薬剤の投与量や期間を比較する試験は、より多くの患者を、毒性と費用を削減しながら効果的に治療できる可能性をもたらす。しかし、このような試験は製薬業界にとって経済的メリットが少ないため、実施されることはない。

別の例として、米国食品医薬品局(FDA)は、各成分が実際に必要であるという証拠を求めずに併用療法を承認することがよくある。これにより、納税者は(潜在的に)有毒で(確実に)高価な、価値を生まない可能性のある治療費を負担することになる。FDA自身も、このような複雑な治療法を分解し、真に有益な成分を特定するための試験を実施することが、納税者の利益にかなうことを認識している。この新しいアプローチは、無駄な支出を減らし、政府が購入する癌治療の効率を向上させ、ひいては政府が負担する1兆5000億ドルという巨額の医療費削減に貢献する可能性がある。医療制度改革は政治的に困難な課題であるが、このアプローチは、それを実現するための有効な手段となるかもしれない。

 

ニュースソース

  1. STAT:S. taxpayers should stop funding clinical trials of industry-owned drugs(by Mark J. Ratain, Feb. 4, 2025)
    https://www.statnews.com/2025/02/04/national-cancer-institute-industry-drug-trials-taxpayer-funding/?utm_campaign=daily_recap&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-8mZwfb_ozecNUbO8mPXaYa0nrjTSLEgVeyQI7Jd6Y1H4AQwyTGb7HzEbO-sVxRtxsP1Ad36cULL3SwIIELLXCWtTPNMaGfwGueM_sEMn76wovWHG0&_hsmi=345725942&utm_content=345725942&utm_source=hs_email
  2. Bruce H. Fireman, et al.: Cost of Care for Patients in Cancer Clinical Trials.
    JNCI: Journal of the National Cancer Institute, Volume 92, Issue 2, 19 January 2000, Pages 136–142, https://doi.org/10.1093/jnci/92.2.136

 

2025年2月5日
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