STAT、2025年6月6日記事。以下、要約。
米国で処方される薬の背後には、大学を中心とした強力な研究開発の仕組みが存在する。基礎研究や応用研究の多くは、長年にわたり米国の研究大学で始まり、その成果が企業に引き継がれ、最終的に医療現場に届けられている。新薬の多くは、製薬企業の名前で知られてはいるが、その起源はしばしば大学にまで遡る。
筆者らは、米国の大学の社会的価値を明らかにするため、医薬品開発を対象とした研究プロジェクトを実施した。FDAが承認した医薬品の特許(FDA Orange Bookに記載された主要特許)を分析した結果、2020~2024年に承認された新薬のうち50%に大学の特許が関与しており、その87%が米国の大学によるものであった。
Orange Bookへの特許登録は極めて高い基準を満たす必要があり、従来は財務的利益の観点から、製薬企業がその発明を自社内にとどめる傾向が強かった。しかし21世紀に入り、大学の研究者や起業家が発明の主体となる例が増加している。
この変化は経済的にも重大である。製薬企業上位10社の時価総額は2兆ドルを超え、業界全体が米国経済において大きな割合を占めるようになっている。さらに、今回の研究は応用研究に限定されており、NIHの支援による基礎研究が90%以上の新薬、ワクチン、医療機器の開発に関与していることも過去の研究で示されている。
米国の研究主導体制は、第二次世界大戦後、フランクリンルーズベルト大統領の「マンハッタン計画」を主導したVannevar Bushが提唱した「科学—果てしなきフロンティアScience — The Endless Frontier」の理念に基づき、国家安全保障と経済発展のための基礎研究の重要性を説いたことから始まった。この構想が、バイオテクノロジー革命における米国の主導的地位を築き上げた。
米国が新薬開発を主導するということは、世界でどの疾患を対象にし、どの治療法を開発するかを決定する権限を握ることを意味する。だが最近の『Nature』誌の調査では、米国の科学者の75%が国外移住を検討していると報告されており、仮に学術体制の弱体化が進めば、今後の医療開発の方向性は他国によって決定される可能性がある。中国は大学研究と製薬開発に巨額の投資を行い、米国の覇権に挑戦している。かつて製薬業界の中心は英国やドイツにあり、覇権の移動は歴史的にも前例がある。
米国の製薬イノベーションは、連邦政府と大学との契約的関係により支えられており、継続的な公的資金による研究支援が、今後も世界的な薬剤開発と経済成長をけん引するために不可欠である。
ニュースソース
STAT+:: We set out to quantify U.S. academic contributions to medicines. The results stunned even us.(by Michael Kinch(chief innovation officer at Stony Brook University)and Kevin Gardner(vice president for research and innovation at Stony Brook University)
https://www.statnews.com/2025/06/06/us-universities-fda-approved-drugs-research-patents-orange-book/?utm_campaign=daily_recap&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-9_PkHJLjj26VTHceJGl-wohYBAk9oT1sFiw2uNFAKyK1aiksQBbIdwPwpRx3M8w9srAwbydWLsJnp04KZFCDTX5drPGmxvWLgWdY3p0ZsSDDKQtVs&_hsmi=365471169&utm_content=365471169&utm_source=hs_email