JAMA Health Forum、2025年6月5日公開の論文。以下は論文の要約。
トランプ大統領とロバート・F・ケネディ・ジュニア米保健福祉長官(Department of Health and Human Services Secretary Robert F. Kennedy Jr)は、「Make America Healthy Again(MAHA)」を標語に掲げ、米国の健康政策を推進している。特にケネディ長官は、慢性疾患の蔓延に着目している。米国における成人の肥満率は2022年時点で42%に達し、他の高所得国の2倍以上であり、糖尿病の有病率も同様に高い。米国の健康格差は国際的に拡大しつつある。
一方で、医療費の「手頃さ(affordability)」については、ワシントンでは十分に議論されておらず、むしろ逆行する政策が見られる。慢性疾患の予防や改善によって将来的に医療費は下がる可能性があるが、それには長い年月を要する。
米国の一人当たり医療費は13,432ドルと他国平均の約2倍であるにもかかわらず、受診回数や入院日数、急性期病床数は他国より少ない。これは、医療の「利用量」ではなく「価格」が高いためである。その主要因は民間保険市場にあり、病院は民間保険に対してメディケアの2倍の料金を請求し、医師報酬も43%高い。
このような高コスト構造は、保険料や自己負担額の増加につながり、例えば雇用主提供の家族保険の年間保険料は25,572ドル、そのうち従業員負担は6,296ドルに上る。自己負担の高い保険設計は医療アクセスの障壁となり、2023年の調査では45%が医療費負担を懸念し、28%が費用のために受診を遅らせたり、断念したと回答している。医療債務も深刻であり、41%が自分または家族の医療費による借金を抱え、総額は2,200億ドルを超えると推計されている。
現在の政策論争は、個人の自己負担ではなく、メディケイドやアフォーダブル・ケア法(Affordable Care Act:ACA)への連邦支出に集中しており、これらの予算削減はむしろ低所得者層の医療の手頃さを悪化させる懸念がある。メディケイドの連邦支出削減は、州への財政的転嫁や、診療報酬や給付の削減、加入者負担の増加、教育など他の州事業への影響をもたらす可能性がある。
また、ACA市場への補助金(プレミアム税額控除)は2025年末に失効予定であり、延長されなければ2,000万人以上の保険料が年間平均705ドル(79%)増加する見込みである。これを恒久化するには10年間で3,350億ドルの財政負担が必要となり、支出と負担軽減のトレードオフが改めて浮き彫りとなる。
慢性疾患の減少は将来的な医療費削減に寄与するが、それが医療価格の引き下げにつながるとは限らず、効果が現れるには長期間を要する。現在、連邦政策の動向は、特にメディケイドやACAに依存する人々にとって、医療の手頃さを低下させる方向に向かっており、根本的なコスト構造への対処は進展していないのが現状である。
ニュースソース
Larry Levitt (KFF, San Francisco, California):Make American Health Care Affordable Again .
JAMA Health Forum. 2025;6(6):e252864. doi:10.1001/jamahealthforum.2025.2864