中国の台頭と米国バイオ医薬開発への警鐘

STAT News 2025年6月3日記事(Opinion)。以下、記事の要約。

近年、中国のバイオテクノロジー産業は急速に成長しており、2023年には世界の大型製薬企業買収の3分の1以上を中国企業が占めた。これらの企業は、スピードと低コストを武器に、米国の官僚的で非効率な新薬開発体制を脅かしている。

米国は依然として基礎科学とイノベーションの面では優位にあるが、規制と運用の硬直性が足かせとなっている。いわゆる「エルームの法則」(Eroom’s Law:Moore’s Lawを逆にした造語)は、製薬業界の研究開発効率が長年低下し続けている現象を指し、1新薬あたりの開発費用は2013年の13億ドルから2024年には23億ドルへと上昇し、ROIは6.5%から4.1%に低下した。そこで、

製薬業界にも同様の改革が必要であり、著者は、米国の製薬研究体制を再活性化する4つの提案を示している(坂巻コメント;臨床試験など、日本にも当てはまる部分がある。)

  1. 低リスク試験の迅速審査制度の導入

すでに承認された薬剤を新たな適応症や組み合わせで試験する場合、米FDAが迅速審査の仕組み(fast-track lane)を設けるべきである。オーストラリアでは低リスク試験が6〜8週間で開始可能であり、米国もこれに倣い、安全性を損なわずに審査速度を引き上げることが可能である。

  1. 契約手続きの標準化

米国では、臨床試験の実施に必要な病院・医療機関との契約交渉が著しく非効率である。これを解消するため、試験プロトコル、倫理審査、同意書、保険契約などを標準化するテンプレートを全国的に導入すべきである。ベンチャーキャピタルや建設業界では、業界団体が標準契約書を導入することで同様の効率化に成功している。

  1. 分散型臨床試験(DCT)の常態化

COVID-19パンデミック下で効果が実証された分散型臨床試験(DCT)を、慢性疾患や低リスク介入を対象とする通常時の試験にも広く展開すべきである。遠隔モニタリング、デジタル同意、在宅血液採取デバイスなどにより参加者の多様性が向上し、データの信頼性も高まる。DCT普及にはFDAが積極的にデータ品質基準を明確化することが求められる。

  1. FDA保有データの公開

FDAが保有する膨大な臨床試験データの多くは非公開であるが、破綻企業の申請データなどは、AI開発や後続研究に有用である。特に前臨床試験データや治験報告書は、匿名化されており、公開しても患者のプライバシーは侵害されない。一定期間(例:特許満了後5〜10年)経過した後にこれらのデータを公開すれば、米国の研究生産性向上に貢献しうる。

以上から、中国は10年前に医薬品規制制度を改革し、研究開発の効率性を大きく向上させた。一方、米国は依然として硬直的な規制が足かせとなり、イノベーションの阻害要因となっている。経済安全保障や国際競争力の観点からも、迅速性と安全性を両立させる新たなアプローチが求められる。

バイオテクノロジー分野において米国は「ムーンショット」を必要としているのではなく、規制・制度の現実的な見直しと構造改革こそが、米国の創造性と競争力を解き放つ鍵となると結論付ける。

ニュースソース

Brian Finrow and Sandeep Patel:4 ideas to kick-start U.S. drug research — and beat China in biotech.
https://www.statnews.com/2025/06/03/us-vs-china-biotech-regulation-erooms-law-high-speed-review-trials/?utm_campaign=the_readout&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-8fixg8NLFdJA3E2hfiwwZ1VHDhLXy9w8XDOrxal4I2kDN83IpERqqojgOHqkC-gPZH79eJG9dGPd3zYYIWV3yTONOsywXaHi2s8b_EQT19r5djoSc&_hsmi=364581975&utm_content=364581975&utm_source=hs_email(サブスクリプション)

2025年6月4日
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