In vivoのCAR-T治療の可能性

2025年5月27日Nature記事。以下は記事の要約。

現在、改変T細胞であるCAR-T細胞は血液がん治療において極めて強力な治療法となっており、脳腫瘍などの固形がんや自己免疫疾患にも応用が期待されている。市場規模は2024年に110億ドルに達し、2034年には1900億ドルにまで拡大すると予測されている。

一方で、CAR-T治療には製造と投与の複雑さが伴う。患者のT細胞を採取し、製造施設で改変・増殖後に再輸注する必要があり、米国でも提供可能な医療機関は約200か所に限られる。治療までに数週間を要し、高額であることも障壁となっており、より迅速かつ低コストな選択肢が求められている。

一部のバイオテクノロジー企業は、T細胞を体内で改変(in vivo)するアプローチに取り組んでいる。遺伝子を運ぶベクターを用い、CARタンパク質の設計情報を血中のT細胞に直接導入することで、製造工程を省略できるとされる。先行するin vivo治療は、従来型と同様にB細胞を標的とするが、体内で遺伝子導入を行うため、ターゲット細胞の選択性が技術的課題となる。

各企業は異なるベクター改良技術を開発しており、たとえばT細胞特異的なCD7に結合するベクターや複数の受容体を同時に標的とするベクターの使用が検討されている。これにより、自然なT細胞活性化に近い反応を誘導しようとしている。

in vivoアプローチには、製造簡略化に加え、従来必要とされていた前処置化学療法を不要とする可能性もあり、副作用軽減や重篤患者への適用拡大が期待される。ただし、サイトカイン放出症候群などの副反応や、CAR遺伝子が誤ってがん関連遺伝子に挿入されるリスクも完全には排除されておらず、慎重な検証が必要である。

他にも、ウイルスベクターに代わり、RNAを用いた一時的な遺伝子導入も注目されている。ナノ粒子でRNAをT細胞に運び、一時的にCARタンパク質を発現させる手法が開発中である。これは反応が過剰となった場合でも投与中止により速やかに効果を抑えられる利点がある。一方、RNAは短期間しか作用しないため、効果持続性の面では課題があると指摘されている。

CAR-T技術の適用領域はがんにとどまらず、自己免疫疾患への応用も進んでいる。既にex vivo型CAR-Tによりループス患者における治療成功例も報告されており、この知見に基づきin vivo型RNA治療にも期待が寄せられている。

さらに、in vivo以外にも、製造時間を22時間に短縮するプロセスや、健康ドナー由来のT細胞を用いたオフ・ザ・シェルフ型治療の研究も進んでおり、CAR-T療法の簡素化と普及が加速している。

30年を経て、CAR-T療法は有効性を実証し、多くの研究者と企業がその応用拡大に参入している。今後は、より迅速かつ手軽にアクセス可能な治療法としての確立が期待される。

 

ニュースソース

Cassandra Willyard:Cancer-fighting immune cells could soon be engineered inside our bodies.
Nature 641, 1090-1092 (2025) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01570-6

 

2025年5月29日
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