初のカスタムCRISPR療法―個別化医療の新時代、薬事規制パラダイムシフトの必要性

2025年5月15日、New England Journal of Medicineに「希少遺伝病治療のための患者特異的in vivo遺伝子編集」が発表された1)。この疾患は、重症カルバモイルリン酸合成酵素1(carbamoyl-phosphate synthetase1: CPS-1)欠損症と呼ばれるもので、乳児期早期に50%の死亡率を示す。治療技術は、CRISPRベースの技術でベースエディター(塩基編集:base editors)と呼ばれるもので、病気の原因となる遺伝子変異を修正することができる。

論文では、規制当局の承認を得た後、患者は生後約7ヵ月と8ヵ月に2回の点滴を受けた。 最初の点滴から7週間後、患者は許容できない有害事象もなく、ウイルス性疾患にもかかわらず、食事性蛋白質を増量し、窒素捕捉剤を開始量の半分に減量することができた。 重篤な有害事象は発生しなかった。安全性と有効性を評価するため、より長期間の追跡調査が必要であるとしている。

このKJと名づけられた赤ちゃんの事例については、Science、Natureも取り上げており(いずれも5月15日)、Science は、技術開発から臨床適用までのプロセスを詳しく解説し、「遺伝子エディターの迅速な開発は、希少疾患研究者の興味をそそる個別化アプローチの画期的な実証である」としている2)。一方、Natureは、やや慎重な言い回しで「治療は効果的であったようだが、このようなオーダーメイド治療が広く適用できるかどうかは不明である」と書いている3)。

Scienceの記事中にも取り上げられているが、このベースエディター技術は、2016年12月に「重度の神経障害を持つ少女を治療するためにオーダーメイドのRNAベース医薬品」に始まったとされ、この治療は、現在約30人の小児でテストされている4)。

この治療の最初の対象となった少女の母、Julia Vitarello氏が、STAT online 5月22日に、「個別化医療の新時代には、FDAの現在のアプローチは、私の娘のような希少疾患で時間のない子供には有効ではなく、『遺伝子手術』時代には新しいシステムが必要である」と主張している。娘さんはMilaという名前で、この患児一人のためだけに設計されたmilasenと呼ばれるアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide:ASO) 薬が投与された。これにより、新しいパラダイム、完全な個別改良の新時代が始まったとする。Vitarello氏は、これを「遺伝子手術genetic surgery」あるいは「介入遺伝学interventional genetics」モデルと呼んでいる。

彼女は、「この新しいモデルは、患者とFDAの双方に利益をもたらすだろう。米国が科学と医学の革新で世界をリードする方法を見つけ出すと同時に、コストを削減し、政府の仕事のやり方を更新することができるからである。 このモデルは、FDA2.0の到来を告げるかもしれない。公衆衛生を守るというFDAの使命は、たとえ影響を受ける人がどれだけ少なくても、救命技術への迅速かつ安全なアクセスを患者に保証することに包含されるのである」とする。

さらに「遺伝子手術システムを構築するために、FDAは比例規制proportionate regulationを目指し、一度に一つの医薬品を承認することから、プロセスを承認することに移行すべきである。 このシステムでは、データと情報の共有が優先され、規格の定期的な改善と技術革新が可能になる。 医薬品は標準化された方法とガイドラインに従って開発・投与され、個別化された安全かつ迅速な介入が可能になる。 重要な転換点として、新システムで承認されたプロセスを満たした医薬品に償還を結びつけることで、企業が病院とともに個別化された医薬品を大規模に開発する動機付けとなり、今日の技術に適応できる飛躍的に多くの患者が、生命を変える可能性のある治療法にアクセスできるようになる。」とする。

Julia Vitarello氏は、Milaの母親であり、Mila’s Miracle Foundation、the N=1 Collaborative、 個別化医薬品に特化した最初で唯一の企業である EveryONE Medicinesの設者/共同創設者である。史上初の真の個別化医療を受けたMilaは、その後10歳で亡くなった。

 

ニュースソース

  1. Kiran Musunuru (Children’s Hospital of Philadelphia, Philadelphia), et al. : Patient-Specific In Vivo Gene Editing to Treat a Rare Genetic Disease.
    N Engl J Med. 2025 May 15. doi: 10.1056/NEJMoa2504747. Online ahead of print.
  2. Jocelyn Kaiser: Gene-editing therapy made in just 6 months helps baby with life-threatening disease. Science, doi: 10.1126/science.zp4aln0
  3. Heidi Ledford:World’s first personalized CRISPR therapy given to baby with genetic disease. Nature, doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01496-z
  4. Jocelyn Kaiser:A tailormade drug developed in record time may save girl from fatal brain disease. Science, doi: 10.1126/science.aav7907
  5. Julia Vitarello:The new era of individualized medicine requires a ‘genetic surgery’ system.
    STAT(サブスクリプション) https://www.statnews.com/2025/05/22/baby-kj-personalized-crispr-treatment-gene-editing-regulation-fda-genetic-surgery/?utm_campaign=daily_recap&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-85QIEnCjTD9NbsQEe1LgBbpVFjD4OYcS6-Hw2xKOzx33ZNYYAM9uXJ-LFzBBCcuav7iGm7a8C9nqgfKgScu3DDEkW219G-NvKKj1K5jtM6XvA-bqc&_hsmi=362845604&utm_content=362845604&utm_source=hs_email
2025年5月23日
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