JAMA Network Open 2025年5月14日公開の論文。高血圧の薬の服薬遵守率(アドヒアランス)を高めるために、行動科学の考え方を取り入れたコミュニケーション手段を用いることの効果をランダム化比較試験(RCT)で検討したもの。RCTは、大手医療保険会社Humanaにおいて、2023年8月18日から12月31日まで実施された。対象は、60%から85%の服薬遵守率で高血圧治療薬を服用している65歳から80歳のメディケア・アドバンテージ受給者。参加者は、7つのグループにランダム割付され、6グループは行動科学の原則を組み合わせた郵送によるコミュニケーションを受け取り、1グループ(対照群、つまり通常のケア)は郵送を受けない。主要アウトカムは、薬局請求データから算出した、対象高血圧薬の服用日数から計算した年末の高血圧薬服薬遵守率。結果としては、メールによるコミュニケーションでの高血圧治療薬の服薬アドヒアランスを有意に向上させることはなかった。ただし、行動科学に基づく介入については参考となりうる。以下は、介入についての詳しめの要約。
本研究における主要な介入内容は、Humana社より参加者個人に郵送されるカスタマイズされた通知であり、これには参加者の服薬アドヒアランスを示す「リフィルスコア(再調剤スコア)」が記載されていた。このスコアは、PDC(Proportion of Days Covered:服薬カバー率)指標を用いて算出された。
被験者のランダム化前に、リフィル(再調剤)周期の長さ(30日もしくは90日)およびランダム化時点での処方薬の保有状況に基づき、対象者は4つの層(ストラタ)に分類された。その上で、各層において、対象者は6種類の介入群または対照群のいずれかに、等しい比率(1:1:1:1:1:1:1)で無作為に割り付けられた。
ランダム化は、SASバージョン8.3(SAS Institute Inc.)のproc surveyselect機能を用い、固定された乱数シードにより2023年8月18日に実施された。各介入群の参加者には、プロトコルに従い、それぞれに対応したリフィルスコアカードが送付された。
各群の介入内容は以下のとおりである:
- 第1群:ベースライン用の郵送物を受領。縦型のカラーバーで表示された個人のリフィルスコアと、その意味、算出方法、処方通りに薬を服用することの利点が記載されていた。また、スコア改善のための具体的なアドバイスも含まれていた。
- 第2群:第1群の郵送物に加え、「毎年、多くの人が時間通りに薬を再調剤し、処方通りに服用することでリフィルスコアを改善しており、高血圧の管理に役立っている」という動的社会規範のメッセージが追加された。
- 第3群:第1群の郵送物に、Humanaの薬剤師が自らの服薬の課題と、時間通りの服薬の重要性について語る証言と署名付きのメッセージ(メッセンジャー効果)が追加された。
- 第4群:第1群の情報を、円形のビジュアルメタファー(「リングを閉じる」ことで現在および完全な服薬状態を促す)に置き換え、**情報処理の容易性(フルーエンシー)**を高めたものを受領。
- 第5群:第4群の視覚的デザインに加え、第2群と同様の社会規範メッセージも盛り込まれた。
- 第6群:第4群のデザインに加え、第3群と同様の**薬剤師による証言メッセージ(メッセンジャー効果)**が追加された。
- 第7群:郵送物なし(通常ケア)。
介入期間中に2回の郵送が行われ、すべての参加者は割り付けられた群にとどまった。
- 第1回の郵送はランダム化時点でのリフィルスコアを含むものであった。
- 第2回の郵送は、初回送付から60日以内に行われ、リフィルスコアの変化が記載されていた。
ニュースソース
Punam Keller(Tuck School of Business, Dartmouth College, Hanover, New Hampshire), et al. : Incorporating Behavioral Science in Medication Adherence Communication – A Randomized Clinical Trial.
JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2510162. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.10162(オープンアクセス)