服薬アドヒアランス介入に関する利害関係者の見解

医療経済・アウトカム研究専門家会議(Professional Society for Health Economics and Outcomes Research、旧ISPOR)のレポート。

服薬アドヒアランス不良は、約50%の有病率で、回避可能な有害事象のリスクを高め、1人当たり年間949ドルから44,190ドルの関連費用を要する重大な医療課題である。 ISPORのMedication Adherence and Persistence Special Interest Groupは、服薬アドヒアランス向上介入(medication adherence enhancing interventions:MAEI)の評価に用いられる尺度を評価するため、2023年に系統的文献レビュー(systematic literature review:SLR)を実施した。その結果に基づき、患者、製造業者、医療提供者、医療技術評価機関、支払者といった主要な利害関係者の視点を要約したもの。以下は、関係者ごとの視点の要約。

  1. 患者の視点
  • アドヒアランスの欠如は、治療効果が不十分である、あるいは副作用の懸念など、合理的な理由に基づく場合がある。
  • 固定的な服薬スケジュールの押し付けは、実生活の多様性を無視しており、真の成功指標とは言い難い。
  • 社会的要因(労働、交通、介護負担など)や医療制度へのアクセス障壁がアドヒアランスに影響を与えるため、これらを考慮した個別対応が必要である。
  • 非遵守に至る理由の聞き取りと分析が、より良い介入設計につながる。
  1. 製薬企業の視点
  • アドヒアランスの向上は、患者のアウトカム改善のみならず、実臨床での有効性データの蓄積や保険償還の根拠にもなる。
  • ナースや薬剤師による介入は有効だが、コストとスケーラビリティに課題がある。
  • 患者支援プログラムやAIを用いた個別化戦略が重要視されており、今後の開発が期待される。
  • 社会的決定要因(SDOH)を考慮したアプローチが鍵となるが、プライバシーの制約により情報へのアクセスに限界がある。
  1. 医療提供者の視点
  • 非遵守の原因は複雑で多様であり、健康格差の文脈で捉える必要がある。
  • 地域薬局での工夫や多職種連携チームによる対応など、さまざまなMAEIが現場で導入されつつある。
  • メディケアやメディケイドの枠組みと連動し、健康格差に対するトレーニングやSDOHスクリーニングも進められている。
  • パフォーマンス指標に基づく支払制度(価値基盤型契約)を通じて、アドヒアランス向上が報酬に直結する仕組みが増加している。
  1. HTA機関の視点
  • アドヒアランスは中間アウトカムであり、臨床アウトカムや生活の質(HRQoL)との関連を明確にすべきである。
  • MAEIのコスト効果分析には、長期的な臨床アウトカムへの影響を伴うエビデンスが必要である。
  • HRQoLとの関連性は十分に研究されておらず、今後の課題である。
  • MAEIの価値評価基準の策定が、HTAによる資源配分や償還判断を支えることになる。
  1. 支払者の視点
  • 支払者にとって、アドヒアランス向上は医療費の抑制と直接関係し、特に慢性疾患領域での重要性が高い。
  • アドヒアランス率は、政府プログラムからの評価(例:MedicareのStar Rating)にも影響し、加入者数にも波及効果がある。
  • SDOHに基づくデータ活用が進められているが、個別の介入が必要となる場面ではプロバイダーとの連携が不可欠である。
  • 医療提供者の報酬をアドヒアランス成果と連動させることで、行動変容を促進している。

 

ニュースソース

Bijan J.、Borah, et al. : Stakeholders’ Perspectives on Medication Adherence Enhancing Interventions.
Value in Health, Volume 28, Issue 5, May 2025, Pages 676-679doi: https://doi.org/10.1016/j.jval.2025.01.022

2025年5月21日
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