超強力なCRISPR治療の臨床実験と遺伝子治療の将来

2025年5月19日Nature記事。プライム・エディティングprime editingと呼ばれる超強力なCRISPR治療が18歳の患者に試された。この治療は、CRISPR-Cas9複合体と呼ばれる古典的な技術に比べ、汎用性の高い最先端の遺伝子編集技術で、PM359と呼ばれる。対象は、慢性肉芽腫で遺伝的免疫障害の患者。治療1か月後、好中球の3分の2で重要な酵素の機能が回復し、重篤な副作用は見られていない。

マサチューセッツ州ケンブリッジのバイオテクノロジー企業Prime Medicine社は、5月19日にこの結果を発表したが、専門誌には発表していないとされる。さらに、このPM359について、これ以上開発しないとも発表した。記事では、Prime Medicine社の共同設立者のDavid Liu氏が「科学技術の問題だけでなく、経済的な問題に帰結する」と語ったとする。

現在、欧米で承認されている遺伝子編集技術は、鎌状赤血球症とβサラセミアという2つの血液疾患に対するCRISPR-Cas9ベースの治療法であるが、これらは1回あたり200万米ドル以上の費用がかかり、普及が遅れている。新しい遺伝子編集技術は、多用途で予測可能であり、プログラム可能な方法でDNAの断片を書き換えたり、挿入したり、削除したりすることができるとされる。しかしながら、prime editingは、血液幹細胞を除去し、それを編集した後、再び体内に戻すというもので、治療のコストと複雑さを増大させるとの課題もある。

記事では、Prime Medicine社が、今後は、嚢胞性線維症や2つの肝疾患に対する治療として、体内に直接投与できるものに重点を置くとしているが、遺伝子治療の価格が高すぎるために、開発企業自らが開発計画を見直さなければならない局面に立たされている状況を示しているともいえる。

なお、STAT誌によれば、Prime Medicine社は5月18日にCEOを交代し、従業員25%の解雇を発表したとされる。同誌はさらに、「ほとんどすべての遺伝子編集企業が、有望なデータがあるにもかかわらず、人員削減やプログラムの縮小を行っている。 数社は完全に閉鎖されるか、合併して消滅した。」としている。

(坂巻コメント:遺伝子編集の価格戦略は、企業側で再考すべきではなかろうか。なお、日本でも、近々、米国価格が320万ドル(約4億8000万円)の遺伝子治療が薬価収載される予定である。)

 

ニュースソース

  1. Heidi Ledford:World first: ultra-powerful CRISPR treatment trialled in a person.
    Natuire News. doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01593-z
  2. STAT+:CRISPR pioneer Prime Medicine switches CEO and lays off quarter of its staff.(by Jason MastMay 19, 2025)
    https://www.statnews.com/2025/05/19/gene-editing-biotech-company-prime-medicine-announces-layoffs-ceo-departure/?utm_campaign=the_readout&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz–8sNXIc4wNm8oZdtbUgBjHHkSOYwad1q4WUjmFKmyxJccxrheHwO3PTMzihwMNSblpUsxPXCeLuxnPHF8M7jmvmMfOC6Mf2qwtURpZkz1mlk3ZBuM&_hsmi=362343558&utm_content=362343558&utm_source=hs_email

 

2025年5月21日
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