アウトカムに差がないにも関わらず経済評価が行われた研究事例

JAMA Netw Open、2025年5月19日公開の論文「重症患者の静脈内鎮静におけるα2アゴニストの費用対効果」1)とそれに対する論評2)。論文は、工呼吸を受けている重症患者の静脈内鎮静におけるdexmedetomidine、clonidine、propofolの費用対効果分析を行ったものだが、事前の効果に関する比較研究では、この3剤に差は認められていない(どれが優れるとはいえない)。にも拘わらず、費用対効果分析(正確には、「費用最小化分析」)が実施され、結論として、QALYでも差がなく、費用にも差がなかったとしている。

この論文に対する論評として、「有効性試験で効果が認められなかったのに、なぜ医療経済分析を行う必要があるのだろうか?」とし、さらにこうした論文がJAMAに掲載されることに驚きを表している。一方で、こうした論文をJAMAが掲載したことから、経済評価の今後の重要性やあり方を考えるべきことを示しているとも考察している。

以下は、論評についての要約。

 

本稿は、集中治療を受けている人工呼吸管理下の患者における鎮静薬3剤(デクスメデトミジン、クロニジン、プロポフォール)の費用対効果を評価した無作為化比較試験(A2B試験)に基づく経済分析の意義について論じたものである。当該臨床試験では、機械的人工呼吸期間に有意差は見られなかったが、費用効用分析(QALYベース)も同様に差を示さなかった。試験結果に差がないにもかかわらず、経済評価を実施し、かつ発表すべき理由として、以下の点が挙げられている。

  1. 試験設計段階では効果の有無が不明であるため、前向きに経済分析を組み込む必要がある。これにより、質の高い同時的データ(特にQOL関連)が収集可能となる。
  2. 明確な臨床効果が認められない場合でも、経済分析は隠れたコストや非効率性を可視化する。例えば、本試験で観察された徐脈が追加的医療資源を必要とした場合、それが費用構造に影響を与える。
  3. 経済分析は副次的仮説(例:ICU滞在時間短縮が長期QOLに与える影響)の検証にも有効である
  4. 有効性を示さない介入の「機会費用」を明示し、撤退(de-adoption)の判断材料となる。パルモナリ―アーテリーカテーテルや集中治療後外来などの事例がこれに該当する。
  5. 集中治療領域では死亡率を改善する介入は限られており、多くの介入は合併症予防やICU滞在短縮による間接的なベネフィットに基づいている。このような介入の価値を評価するためには、経済的視点が不可欠である。
  6. 「コスト最小化分析(Cost-Minimization Analysis)」は、効果が等しいとみなされる介入間で、最も効率的なものを特定するために有用である。これは、質の高い集中治療を支える人的・組織的資源の優先順位付けにも資する。

結論として、死亡率や主要アウトカムに差がない試験であっても、医療資源配分や臨床判断を支えるうえで、費用対効果評価は極めて重要な情報を提供するものである。特に集中治療領域においては、臨床・運用・経済の観点からのトレードオフを明確化する手段として、経済評価の役割はますます高まっていると指摘される。

 

ニュースソース

  1. Stephen Morris(Primary Care Unit, Department of Public Health and Primary Care, University of Cambridge, Cambridge, UK), et al. : Cost-Effectiveness of α2 Agonists for Intravenous Sedation in Patients With Critical Illness.
    JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2517533. doi:1001/jamanetworkopen.2025.17533(オープンアクセス)
  2. Brian H. Cuthbertson(Department of Critical Care Medicine, Sunnybrook Health Science Centre, Toronto, Canada):The Case for Economic Analyses in Trials With a No Effect Primary Outcome.
    JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2517477. doi:1001/jamanetworkopen.2025.17477(オープンアクセス)
2025年5月20日
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