【論文】降圧薬の服用―朝か夜か?

血圧(BP)は夜間に10~20%低下するのが正常な日内変動であり、このパターンの欠如は心血管疾患(CVD)のリスクとされる。これまで高血圧治療では、日中の血圧上昇に対応するため、降圧薬を朝に服用するのが一般的であった。

しかし、2010年にスペインのMAPEC試験が、降圧薬を就寝時に服用するとCVDイベントのリスクが著しく低下するという結果を報告し、大きな注目を集めた。続くHygia試験(2020年)でも同様の結果が報告されたが、あまりに効果が大きすぎたため、研究の妥当性に対する懸念が専門家から示され、データの信頼性や無作為化の方法に疑問が呈された。

その後、英国でTIME試験が実施され、21,000人以上を対象に朝と夜の服用効果を比較したところ、主要な心血管イベントに差は認められず、服用時間は患者の都合を優先すべきと結論された。また、小規模なHARMONY試験でも、服用時間による血圧や診察値の差は認められなかった。

カナダで行われたBedMed試験では、3,357人のプライマリケア患者を対象に就寝時と朝の服用を比較したが、主要転帰や安全性に差は認められなかった。夜間の平均血圧はわずかに低かったものの、臨床的な有意差はなかった。さらに、高齢で虚弱な施設入所者776人を対象としたBedMed-Frail試験でも、死亡率や有害事象に差は見られなかった。

これらの結果から、当初報告された就寝時服用の劇的な効果には再現性がないことが明らかとなった。臨床的には、降圧薬の服用時間よりも、服薬の継続性と長時間作用型製剤の使用が重要である。また、就寝時服用に大きな安全性上の懸念がないことも確認され、介護者による支援の利便性向上にもつながる可能性がある。

最後に、薬剤が概日リズムに与える影響や、服用時間による血圧への影響が一貫していない点について、今後さらなる研究が求められる。BedMed試験群は、TIMEおよびHARMONY試験を支持し、「服用時間は治療効果や安全性に大きな影響を与えない」とするエビデンスを補強するものである。

 

 

ニュースソース
Sandra J. Taler(Division of Nephrology and Hypertension, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota):Morning or Nighttime Medication Dosing—Does It Matter in the Treatment of Hypertension?
JAMA. Published online May 12, 2025. doi:10.1001/jama.2025.7286

 

(オリジナル論文)
Scott R. Garrison(Pragmatic Trials Collaborative, University of Alberta, Edmonton, Alberta, Canada), et al. : Bedtime vs Morning Antihypertensive Medications in Frail Older Adults
The BedMed-Frail Randomized Clinical Trial.
JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2513812. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.13812(オープンアクセス)

2025年5月13日
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